2014-15 学期中の過ごし方 Aの場合 [受講ガイド(2014-2015)]
LL.M. Class of 2015のAです。
国家公務員向け留学プログラムを利用して2013年7月からアメリカに来ています。昨年,西海岸のロースクールでLL.M課程を修了し,現在,ヴァンダービルト大学で2つ目のLL.M課程を履修しています。興味・関心の方向がビジネスロイヤーや企業の法務部に所属する方とは異なるかと思いますが,ヴァンダービルトで得られる経験のバリエーションの1つとして参考になれば幸いです。
1.スケジュール
(1) 秋学期(Fall 2014)
| AM | PM |
Mon | 予習 | LL.M. Academic Writing |
Tue | 予習 | LL.M. Academic Writing |
Wed | Introduction to Legal Research & Writing | Intellectual Property Survey |
Thu | Introduction to Legal Research & Writing | Intellectual Property Survey |
Fri | Introduction to Legal Research & Writing | Intellectual Property Survey |
Sat | 余暇 or 予習 | 余暇 or 予習 |
Sun | 余暇 or 予習 | 余暇 or 予習 |
※ 上記に加え,不定期開講のLife of the Law,集中講義International Commercial Arbitrationを受講しました。
(2) 春学期(Spring 2015)
| AM | PM |
Mon | 予習 | Family Law |
Tue | 予習 | Family Law |
Wed | Law and Bioethics | LL.M. Academic Speaking |
Thu | Juvenile Justice | 予習 |
Fri | Juvenile Justice | 予習 |
Sat | 余暇 or 予習 | 余暇 or 予習 |
Sun | 余暇 or 予習 | 余暇 or 予習 |
※ 上記に加え,集中講義Patent Litigationを受講しました。
2.授業概要
(1) 授業選択について
Bar Examを受験しないため,潔く自分の関心に沿った科目選択になっています。
「法と科学の相関関係」と「紛争解決」を2年間を通じたテーマにしており,1年目は,裁判手続法,ADR(裁判外紛争解決),憲法及び医療関係法を主に学んできました。2年目の今年は,それらを踏まえて,科学と法に関係する科目及びADRの発展科目を主に選択しています。加えて,春学期には,アメリカに来てから関心を持つようになった家族と子どもに関する法律関係についての授業も履修しています。
(2) 秋学期
ア.Life of the
Law(「法の一生」)※原則として必修
法学未習者であるJD1年生やアメリカに来たばかりのLL.M生に,授業を乗り切り,単位を揃えるために必要な知識と技能を与えることを目的とする授業で,秋学期開始直前の1週間をまるごと使って(秋学期開始後は不定期開講),アメリカの司法制度の概要にはじまり,ロースクールにおけるソクラテスメソッドの紹介,判例の読み方,契約法の模擬授業,ビザ関係の注意点に至るまで,多岐にわたる授業を受けました。
1年目に当該科目に相当する科目を履修していた(どこのロースクールでも大抵この手の科目は必修)ので,免除を申請しようかとも思ったのですが,LL.M.だけで受ける授業は限られているので,クラスメイトと仲良くなる機会と思って受講しました。受講してみると,非常によく練られたカリキュラムで,内容面でも受講して良かったと思います。
イ.Legal Research
and Writing(法の調査及び文書作成)※必修
アメリカの法曹に求められる文書は,連邦最高裁の判決から学生のレポートに至るまで,構成,論の立て方,文献の引用等にかなりきっちりしたルールがあります(但し,実際の判決では無視されていることも多いですし,州の裁判所が定めたローカルルールがあればそちらが優先します。)。これはJD, LL.M.の別を問わず馴染みのないものなので,そのお作法をマスターする授業が必修になっています。文献を探し,文章を組立て,書き起こす過程を段階を踏んで教わりました。課題は大変ですが(秋学期で一番負担が重いのはこの科目),繰り返し書いているうちに,なんとなく,コモンローにおける先例の意味や判例の射程の考え方が身についてくる……ような気もします。
ウ.Intellectual
Property Survey(知的財産法概説)
文字通り,知的財産法を概括的に学ぶ授業で,営業秘密に関する法,特許法,著作権法,商標法及びパブリシティーに関する法が対象となります。条文及び各分野における代表的判例を読んで知的財産法のエッセンスを身につけることが主眼で,個別分野についてはあまり深く学ばないので,知財の実務経験がある学生には物足りないようですが,個人的には,知的財産法全体を学ぶことで,知的財産制度全体の設計やバランスについてより全体的に理解することができ,良かったように思います。
ちなみに,LL.M担当教授であるProf. Gervaisが担当しており,LL.M.の学生にとっては英語が聞き取りやすい,いきなり難しいことは聞かれなさそう,という意味でも安心な授業です。
エ.Mediation(調停)
調停手続を導入(Conveying),オープニング(Opening),相互理解(Communication),交渉(Negotiation)及びクロージング(Closing)の5段階に分け,各段階における到達目標とその手段を意識しながら手続を進めるアプローチを学びました。授業は,予習した文献を踏まえて,調停人がどういった技術を用いることが各段階における目標達成に有効かについてブレインストーミングを行い,その上で,学生間でのロールプレイングでその技術を実践する,という流れで行われ,3時間15分の授業があっという間に感じました。
交渉の技術等は,「ハーバード流交渉術」などの名前で売られている本を通じて既に日本でも周知の内容を含みますが,実際にアメリカの学生とロールプレイングをしてみると,交渉文化の違いを感じて興味深いです。個人的には,昨年度在籍していた西海岸の学校の学生に比べると,Vandyの学生が総じて大人しく,First Offerもそれほど高く設定してこない上,比較的協調的であったことから,アメリカ国内での文化が違いが印象に残っています。
オ.集中講義 International
Commercial Arbitration(国際商事仲裁)
Short Courseと呼ばれている,週末を含む1週間(この講義の場合は木曜からなので4日間)で合計14時間の授業を受ける集中講義の1つです。国際仲裁の経験が豊富なNYの弁護士を講師に迎え,国際商事仲裁の特長,NY条約,国内法との相互関係,仲裁における技法,管轄,ディスカバリーの範囲,執行における問題点等を学びました。ショートコースといえど,1時間あたりに求められる予習の量は通常並み,かつ,10頁以上のレポートが課されたため,一時的な負担は大きいのですが,各論点について短時間ながらしっかり議論がされ,実務的なアドバイスも聞くことができ,有益であったように思います(期末試験前にこのレポートを書くのは大変でしたが……。)。
(3) 春学期
ア.Law and Neuroscience(法と神経科学)
脳神経科学分野の発展,特に脳モニタリング技術の発展(いわゆる「ブレイン・マッピング」等)と法の相互関係を検討する,という,メディカルセンターと連携しているヴァンダービルトならではの授業で,生命科学を専門とするロースクールの教授と神経科学を専門とする教授が2人で授業を行います。理系出身の学生が多く,心理学部の学生もちらほら受講しています。
講師の研究テーマが刑事法寄りなので,刑事手続に関する話が中心になりますが,脳の解剖やはたらき,脳に対するモニタリング及び操作の技法,その限界及び注意点,神経学的証拠(脳CTや脳波測定の結果)の法廷における証拠能力,脳死の定義と診断基準等,興味深い論点がてんこ盛りです。
ヴァンダービルトに進学を決めたときから楽しみにしていた講義の1つであり,実際に受講している感想としても,予習教材・授業内容ともに,今期1番面白い授業です。
イ.Bioethics and
Law(生命倫理と法)
生殖補助医療,受精前遺伝子診断と選択的中絶,延命治療,脳死の基準と臓器提供,深部脳刺激によるパーキンソン病及び精神疾患の治療等について,倫理的問題点の所在を学び,それらの問題点を克服するための法的規制手段について検討するゼミ形式の授業で,これも医師の資格を有する教授が講師です。日本においても問題になる可能性が十分にあり,かつ議論や問題意識が未成熟な問題点も多く,アメリカにおける議論を見ると改めて考えるべき点が明らかになる効果があるように思います。
ウ.Family Law(家族法)
家族関係の定義,その形成及び解消に関わる法的論点を理解し,家族,特に子及びドメスティック・バイオレンスに関連する紛争解決(ADRを含む。)に携わる上で必要な知識を獲得することを目指すもので,今までのところ,同性婚,法律上の婚姻を伴わないパートナーシップ,婚外子に関する法律関係等を学びました。講師はキューバ出身の,日本でいうと「大阪のおばちゃん」という感じの親しみやすい女性で,デリケートな内容でも明るく進むのがありがたいです。
エ.Juvenile
Justice(少年法)
少年法は,刑事法の一分野で,いわゆる少年非行(未成年者による犯罪行為,飲酒,不登校等)を扱います。内容は,捜査機関が未成年者に対して身体拘束を伴う取調べを行う際に配慮すべき点,教育機関における身体捜索の要件,通常刑事手続への移行の要件,仮釈放のない無期懲役の合憲性,といった少年事件に特有の論点について,手続の流れに沿って検討します。受講生は,既にパブリックディフェンダー(刑事国選弁護を専門に行う弁護士)又は検察官として就職が決まっている学生(多くは既に研修で実務経験がある。)や,関連分野に関心が深い学生が多く,議論もかなり実際的です。
加えて,刑事責任能力及び訴訟能力に関する精神鑑定を専門に行うヴァンダービルト大学の医療チームから講師を迎えて非行少年の精神面に関する講義を受けたり,通常非公開の少年事件法廷及び少年鑑別所を見学したりと,実務も見ることができる点も魅力です。
以上に加え,秋学期にAcademic
Writing,春学期にAcademic
SpeakingというLL.M向けの英語講座も受講しています。
長くなってしまったので,生活面は,改めて投稿したいと思います。長文にお付き合い頂いてありがとうございました