SSブログ

週替わり日記2009秋学期 Aの場合 [週替わり日記(2009-2010)]

 はじめまして。2010年度LL.M.のAです。今年度Vanderbiltに留学している日本人は4人、ということで、最後になりましたが、私の秋学期の模様をまとめてみました。
1. 秋学期のスケジュール


AMPM
Mon自習Copyright
Con Law II
Tue自習Copyright
Con Law II
LLM English
Wed自習Copyright
ThuAntitrust
Intro to Behavioral Econ
Legal Writing & Res
LLM English
FriAntitrust
Intro to Behavioral Econ
Legal Writing & Res
Sat余暇/自習余暇/自習
Sun余暇/自習余暇/自習

 

2. 授業の様子
(1) Copyright
 タイトルのとおり、著作権法の授業です。ケースブックに沿って、著作権の対象、著作権侵害など、重要な論点・判例を順番に議論していく形です。もちろん、(アメリカの著作権法の特徴として紹介されることの多い)フェアユースについても多くの時間を割いて授業が行われました。
 授業は、典型的なケースメソッドで、教授が学生に対して、ケースブックの判例の概要、原告・被告側の主張などを聞いていくものです。重要なケースでは、複数の学生を指名して原告・被告側に分けて議論をさせる、ということもありました。また、フェアユースの議論のところでは、学生に問題となりそうなYoutubeの動画のURLを教授にメールし、授業でピックアップして議論する、ということもありました。

(2) Constitutional Law II
 日本的にいえば、憲法(人権)ということになります。Sさんが履修している授業とタイトルは同じですが、違う教授です。
 構成は、(条文の構成が異なるので当然ですが)日本とはだいぶ異なります。大きく言えば、ステートアクション、実体的デュープロセス、平等条項という構成になっています。進め方は、こちらも通常のケースメソッドです。ただ、Copyrightよりも一人の学生に多くの質問をしていく形で、その点では違いがあります。
 授業を担当している教授は、ケースブックに紹介されているケースにも関わったことがあるとのことです(例えば、BRENTWOOD ACADEMY V. TENNESSEE SECONDARYSCHOOL ATHLETIC ASSN.)。講義がそこに到達したときは、通常はケースブックに抜粋された範囲での紹介となる判例が、このときばかりは判決文をすべて掲載したハンドアウトを配布して詳細に解説していただきました。
 日本の憲法論はアメリカの判例理論に影響を受けている部分が多く、日本で学んでいたときに聞いたことがある判例や理論も見られましたが、あらためて考え方の推移や社会的背景を学ぶと別の発見もあり、興味深いところでした。

(3) Antitrust Law
 反トラスト法の授業です。担当していたのは、ナッシュビルで反トラスト法の弁護士をされている方で、以前は司法省の反トラスト法担当もされていた方だそうです。授業は、ケースメソッドで、基本的な概念について学習を進めていく形でした。
 この分野の特質でもあるのですが、その時代の経済状況や経済学のトレンドが判例理論に大きな影響を与える点は奥深さを感じさせました。また、判例には誰でも名前を知っている大きな会社が登場するので、親しみやすかったと言えると思います。たとえば、ケースブックの最初に出てきた判例はマット・デイモン主演で公開された「インフォーマント!」の素材となったリジンカルテル事件でしたし、もちろんマイクロソフトの事件も登場しました。

(4) Introduction to Law and Behavioral Economics
 日本でも、近年「行動経済学」「行動ファイナンス」に関する書籍や記事が増えてきました(例えば「実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択」)。この授業は、法と行動経済学の関係について学ぶものです。
 例えば、通常の訴訟では、原告は訴訟よりも和解を望むが、被告は和解よりも訴訟を望む。これは、原告は賠償を得るかどうかの判断にあたってはリスク回避的になる一方、被告は賠償を支払うかどうかの判断にあたってはリスクを求めるようになる。これは、「利益を得る際にはリスク回避的に、損失を被るときにはリスク愛好的にある」という行動経済学に基づく人の行動様式に基づくものだ、というような事例が紹介されました(伝統的な経済学理論から言えば、利益と損失への評価は同じはず、ということになります)。 
 授業は、特定の教科書を読み進めるものではなく、毎回論文が指定され、それをもとに授業が進められます(そもそも、「法と行動経済学」についての講義向けの教科書は現時点では存在していません)。どちらかというと、日本の大学院の授業に近いイメージでしょうか。
 この授業は、アメリカのロースクールでも設置されているところはまだ数えるほどだそうです。ヴァンダービルト大は、法と経済学の分野にも注力しており、Law & EconomicsのPh.D.課程があり、現在のDeanもこの分野で多くの論文を書いています。
 もちろん、新しい分野であることから、まだ議論の深さにばらつきがみられる点もあります。しかし、行動経済学にも関心を持っていたので、こうした形で学べたことは意義が大きかったと感じています。
(5) Entertainment Industry Transaction
 その名のとおり、エンターテイメント業界の取引を素材としています。担当は、ナッシュビルでエンターテイメント関係の業務を担当している弁護士の方でした。
 授業は、業界の契約書のサンプルを見ながらディスカッションをしていったり、クラスを2つに分けて交渉のエクササイズをしたり、というものでした。また、10人前後の受講生で、雰囲気も和やかでした。実際の業務でのエピソードも聞け、興味深い授業だったと感じています。
(6) その他

 これ以外に、LL.M.の学生みんなで履修したライティングのクラス、秋学期の第1週に履修したLife of Law、Kさんと一緒に履修したCollective Copyright Managementのショートコースがありますが、これらの説明は他のみなさんと重複するので割愛します。

 秋学期に面白そうな科目が多かったため、結果的にかなり厳しいスケジュールになってしまいました。LL.M.は1年間しかないため、関心を持った科目があればその年に取っておかないと次の機会はないというのが悩ましいところですね。授業のスタイルなど慣れない中で予習・復習は綱渡り・自転車操業でしたが、結果的にはいずれの科目もさまざまな収穫がありました。

 



共通テーマ:資格・学び

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。