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J.D.攻略法 あとがき J.D.留学を考えている皆さんへ [J.D.攻略法]

 欧米の弁護士が支配する国際交渉を目の当たりにしてJ.D.留学を決意してから、はや5年が経とうとしています。私はまだJ.D.を卒業したばかりで、アメリカン・ローヤーとしての切符を手にしたに過ぎません。NYCにある弁護士事務所への就職は決まりましたが、結果を出さなければ、いつクビになるかもわかりません。ですから、えらそうなことは全く言えませんが、それでもJ.D.を生き残った日本人として、もう一度私の留学生活を振り返ってみたいと思います。

 J.D.留学を決意し、LSATでも予想以上の好成績を収めた私でしたが、出願の道のりは厳しいものとなりました。調子に乗って応募したトップ10スクールからは、低GPAのために軒並み不合格をもらい、そんな私を拾ってくれたのがバンダービルトでした。留学前は名前も知らないバンダービルトでしたが、キャンパスは美しく、ナッシュビルの住環境も想像以上でした。しかし、希望に満ち溢れて入学したロースクールの生活は、巷に言われている通り、死ぬほど怖く、そしてつらいものでした。

 1Lのセクション(クラス)75名のうち、言葉の不自由な外国人は私だけでした。初めて契約法の授業でソクラテスメソッドの餌食になったときには、頭の中が真っ白になりました。挨拶しても無視したり、冷たい態度を取ったりするクラスメイトも少なくありませんでした。必勝を期して臨んだ秋学期の期末テストでは、言葉の壁を思い知らされました。

 そんな私にも、少しずつ追い風が吹いてきました。民事訴訟法の中間テストで好成績をとり、J君というすばらしいスタディーパートナーも出来ました。ライティングを通して見つけたブルーブッキングという自分の強みを生かして、ジャーナルのメンバーに選ばれ、周囲の見方も少しずつ変わってきました。幸運にも、希望の事務所からオファーをもらうことが出来ました。ジャーナルという居場所を見つけ、役員として30人の後輩を指導する機会にも恵まれました。

 今振り返れば、何一つ悔いの無いロースクール生活でした。しかし、これから留学を考えていらっしゃる皆さんに、J.D.に挑戦することを手放しでお勧めすることは出来ません。J.D.における語学の壁は、通常の留学とは比べ物にならないほど高いと思います。私は、高校生のときに一ヶ月間ホームステイしたり、日本で英語学校に通ったりしていたことを除けば、完全にドメスティックな人間です。そんな私でも生き残ることが出来ましたから、まるっきり不可能な挑戦ではなかったと言えます。問題は、そのリスクを判断する上での情報が、J.D.に挑戦する日本人の少なさから、決定的に欠けているということだと思います。

 J.D.は3年間ですから、3年もあれば何とかネイティブと対等に戦えるレベルになるだろうと考える方もいらっしゃるかも知れません。しかし、実はJ.D.の勝負は3年間ではなく、最初の1年間なのです。卒業後の就職先を決めるのは、2L終了後のインターンで、そのインターンシップを獲得するために最も重要なのは1Lの成績です。ジャーナルのメンバーシップも、1Lの成績が重要視されます。もちろん、1Lの成績が下位であっても、努力を続けて挽回する学生はいますが、非常に例外的です。私の代に限らず、英語圏以外の国からの留学生の就職率は芳しくありません。毎年ジャーナルのメンバーはほとんどいませんし、卒業後の就職先が見つからず失意のうちに帰国する学生の姿も少なからず見てきています。私は運よく就職先を見つけることが出来ましたが、アメリカ人と対等に競争できるとは少しも思っていません。ブルーブッキングのように、得意とするニッチの分野を見つけ、そして日本人であることを生かせるような仕事をしていくしかないと思っています。

 もしこれをお読みの方がまだ学生で、アメリカン・ローヤーとしてアメリカ人と対等に仕事をしていきたいと思われるのであれば、出来るだけ早い段階(高校生・大学生)で留学されることをお勧めします。ロースクールに入るにあたって大学の学部は問われませんから、大学時代は好きな勉強をして、その時間に本当にローヤーになりたいかどうかを考えることも出来ると思います。また、J.D.を卒業した時点でまだ20代半ばであれば、たとえ希望の就職先を得られなかったとしても、挽回の可能性はいくらでもあります。

 しかし、もし読者の方が既に社会人で、留学を一種のリセットとしてお考えの場合は、J.D.という選択は非常にリスクが高いものになります。留学生にとっての米国法曹界での就職は、たとえJ.D.を取れたとしても、簡単なことではありません。既にキャリアをお持ちの場合は、米国での就職の可能性は限られてしまいますが、J.D.だけにこだわらず、一年間のLL.M.や他分野でのマスター・プログラムという選択肢もあると思います。

 最後に、ここまでお読みになっていただいて、どうもありがとうございました。J.D.を目指している皆様への情報発信は今後も続けていくつもりですが、一旦ここで筆を置おかせていただきます。ご質問やご意見をいただける場合は、 まで気軽にメールを送っていただければと思います。

M (2007 Doctor of Jurisprudence)

ジャーナルオフィスにて


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