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一週目 Mの場合 [週替わり日記(2006-2007)]

 初めまして。一番手をおおせつかりました私は、J.D.プログラム3年生(3L:スリーエルと読みます)のMと申します。この週替わり日記では、在校生6人が一週ずつ担当し、ありのままの留学生活を描いていきたいと思います。ナッシュビル生活も今年で3年目となり、カントリーミュージックなしでは生きられない体になってきました、などということはありません。もっとも、上の階の住人は、今日も大音響でエルビスプレスリーを聞いています。

 しばしば、J.D.プログラムの3年間について、「1年目は死ぬほど怖い、2年目は死ぬほどつらい、3年目は死ぬほどだるい」などと言われます。大げさなようですが、私の経験上、これはかなり的を射ています。1L(ワンエル)の成績は、将来の就職先を決定する重要な要素なので、だれもが懸命に勉強します。教授のソクラテスメソッドも厳しく、完璧な予習が要求されます。毎日プレッシャーと戦う日々でした。そして、2L(ツーエル)になると、学校の勉強だけでなく、就職活動・ジャーナル活動・論文の執筆などの負担が増え、肉体的にも精神的にもつらい時期が続きます。自分をいじめることに喜びを感じる方にとっては、たまらない2年間でしょう。

 しかし3Lになると、すでに卒業後の就職先も決まっている学生が多く、あまり勉強をがつがつとする雰囲気ではありません。死ぬほど怖くそしてつらかった1Lと2Lの反動もあって、なるべく楽な科目を取り、単位を落とさない程度に遊びまくる学生もいます。私はと申しますと、毎日ゴルフをしたいという誘惑と戦いつつも、比較的重めの授業やジャーナル活動など、それなりに忙しい日々を送っています。

1. 週間スケジュール

2. 学校生活

(a) 授業

 当校でJ.D.を取得するためには、3年間で88単位の取得が必要です。私の場合は、あと29単位取得しなければなりません。来学期を少しでも楽にして、毎日ゴルフに勤しむため、もとい、法律以外のさまざま教養を身につけることに時間を使うため、今学期は規程上限の17単位5科目を履修しています。NYにある国際取引を得意分野とする弁護士事務所に、卒業後の就職がかろうじて決まっているため、なるべく関連の深い科目を選択しました。

 授業がすべて午前中に収まっているので、一見楽そうに見えるかもしれません。しかし、水曜日を除き、授業は朝8時という容赦ない時間に始まります。特に、月曜日と火曜日は、間に10分ずつの休みを挟んで3科目が連続しています。時々混乱して自分が何の授業を受けているのかわからなくなったり、全ての教科書(合計7冊、岩のような重さ)を持ち運ばなければならず腰痛になったりしますので、こういう授業のとり方はお勧めしません。

 最初の一週間は、「履修おためし期間」とされており、いろいろな授業に出て感触を確かめることができます。「明日までに50ページ読んでくるように」などと言ったりする教授の授業は、二回目から極端に人が減ります。昨年の話ですが、地元の弁護士の方が教える授業で、私は彼の言っていることが、極端な南部なまりのため、一言一句もわかりませんでした。私の名誉のために言っておきますと、両隣に座っていたアメリカ人学生達も、「意味不明だ」と言っていました。私は当然ほかの科目をとることにしましたが、教授の名誉のために言っておきますと、彼の言っていることが解読できる生徒にとっては、非常に実践的で面白い授業だったらしいです。

(b) ジャーナル

 ジャーナルとは、課外活動の一つとして、2Lと3Lの学生が編集する法律論文集のことです。ジャーナルのメンバーは、1L時の成績と1L終了時に行われるライティングコンテストの結果によって選ばれます。編集委員である学生が、全国の学者や実務家から送られてくる論文の、選択から編集まですべてを行うという強大な権限を持っているところに特徴があります。特に学者にとって、ジャーナルに論文が掲載されることは大きな実績となるため、学生が正教授昇進のカギを握ることも多々あるのです。普段ソクラテスメソッドで教授にいじめられている生徒にとっては、「あんたの論文は載せないよ」と仕返しをするチャンスです(が、そんなことはしません)。

 当校には3つのジャーナルがあり、私は国際法を主に扱うJournal of Transnational Lawに所属しています(International ではなく Transnational というところに、こだわりを感じます)。メンバーは、2Lと3Lの合計65名です。そのうち10名の3Lが、編集役員としてジャーナルの実質的な経営に責任を持っています。私はその一人のExecutive Authorities Editorとして、2Lの指導監督および引用の正確性に最終的な責任を負っています。Executive Authorities Editorという自分の肩書きをすらっと発音できるようになることが、私の卒業までの最大の目標です。

 ジャーナルにおける2Lの「ヒラ」の仕事は、論文の引用一つ一つについて、形式的および実質的な正しさをチェックすることです。形式的なチェックのルールはBluebook という400ページほどの冊子に詳細に定められているため、こうした作業のことをBluebooking(ブルーブッキング)と呼ぶこともあります。Bluebooking はジャーナルの過酷な長時間労働の代名詞ともなっています。しかし、私はこれが得意だったため編集役員になることができたので、私にとっては「座右の書」とも言え、常に肌身離さず持ち歩いています。

 当ジャーナルには私、レイチェル、ラトーヤという3人のExecutive Authorities Editors がおり、仕事を分担しています。二人とも女性で(編集役員10人のうち、編集長を含む6人が女性です)、大変優秀で気が強く、早口で自分の意見を主張します。二人の議論がヒートアップしてくると、私のリスニング能力では何を言っているのかわからなくなることもありますが、別に喧嘩しているわけではないので、私はそっと席をはずします。

 今週は早速2Lのメンバー対象のオリエンテーションを行い、役割や仕事の仕方を説明しました。期日を守ることの重要性を繰り返し説明しましたが、相手はアメリカ人なので、(たとえロースクールの学生、選ばれたジャーナルのメンバーといえども)どこまで期日を守るかは未知数です。一般に、彼らは口が達者で、さも自分は悪くないかのように言い訳するのが大変上手なので、これから厳しく指導していかなくてはなりません(できるのか?)。

3. 学校外生活

 授業やジャーナル活動に忙しい毎日ですが、金曜の午後はリフレッシュのための時間に使っています。今週は親友の一人とゴルフに行こうと話していました。彼は地元テネシーの出身で、卒業後もナッシュビルの名門事務所に就職が決まっています。ところが木曜日にその事務所のパートナーに高級ランチにさそわれホイホイついていったところ、帰りがけに「じゃあこれ月曜日までにやっといてね」と仕事を渡されてしまったとのこと。仕方がないのでレインチェックを受け取り(野球の試合などで雨天順延になった場合、次回の試合をただで見ることができるチケットのこと。この場合は、また来週やろうという意味です)、今回は一人で行ってくることにしました。

 ナッシュビルには土地が余っており、市内・近郊に20箇所近いゴルフ場があります。メンバー限定の名門コースもありますが、ほとんどは公営で、9ホール10ドル、18ホール20ドルといった格安でのプレーが可能です。公営で格安といっても、コースはきれいに手入れされています。しかも空いているので、特に予約もいらず、思いついたらふらっと行ってプレーを楽しむことができます。

 さて、今回お邪魔したのは、学校から車で10分程度、ベルミードという高級住宅街のはずれにある、パーシーワーナーゴルフ場です。ベルミードというのはナッシュビルでも1・2を争う美しい地区で、フットボールができそうな庭のあるおしゃれなお屋敷が立ち並んでいます(かの二○ール・キッ○マンも住んでいるそうです)。住宅街を奥まで進みますと、パーシーワーナー公園という巨大な森が見えてきます。ゴルフ場はその一角に佇んでおり、「ほーこんなところに収納が、いやゴルフ場が」といった感じです。こういった高級住宅街や、気軽にゴルフをできる環境を見ると、はたして日本って本当に豊かなんでしょうか、などと考えさせられてしまいます。



 1時ころからゆったりと9ホールを堪能し、3時には家にもどってシャワーを浴びることができました。その後軽く昼寝をして、夜は同級生のアメリカ人や中国人たちと近くのモールに行き、食事と映画を楽しみました。半日これだけ遊んでも、使ったお金は合計で30ドル程度です。ちなみにこのモールはなかなかの高級志向で、最近はティファニーとルイ・ヴィトンが入居し、一部でニュースになりました。再び私の名誉のために言っておきますと、こんな余裕のある時間のすごし方をしているのも金曜日の夜だからで、週末はまた予習とジャーナルの仕事が待っています。

 次回の週替わり日記の担当は、最年少日本人LL.M.、未来の大御所 Kさんです。お楽しみに!

 Mのプロフィール・受験体験記はこちらです。
 http://blog.so-net.ne.jp/vanderbilt-law-japan/2006-08-21-9


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